2009年3月16日月曜日

ハッピーフライト「そのづら、ずれているずら」

私はヅラマニアだ。マニアと言っても、ヅラを利用している訳でも、コレクションしている訳でも無い。街行く人の中で、ヅラらしき人を見つけ出し、本物のヅラなのか否か、真贋鑑定を行う事を趣味にしている。
そんな私はヅラにまつわる数々の出来事を経験してきたが、中でもとびきりの話を一つ書こうと思う。勿論実話だ。
私はたまに仕事で地方へ出張になる事がある。その日も出張で、羽田から日本海側のある県へ飛び立とうとしていた。いつもの様に機内へ乗り込み、自分の座席の前の席を見ると、初老の紳士の姿があった。深刻そうな顔付きで読んでいる本を横目で見てみると、「ニューク◎ウン」とある。どうやら、中学の英語の教科書らしい。学校の先生なのかなと思ったものの、それ以上は特に気に留めなかった。
紳士のすぐ後ろの席へと着こうとした時、私の目に信じられない光景が飛び込んできた。なんと、紳士の後頭部にフサフサの毛と頭皮丸出しのツルツル部分の不自然な境界があるではないか!しかも、よく見ると、フサフサの部分はシリコン製の土台に植毛したヅラで、後頭部から浮き上がって、めくれ返っている。どうやら、オデコの生え際を隠す方にばかり気をとられ、後頭部の不自然過ぎる状況には一切注意が届いていないらしい。
長年使い込まれたのであろう、そのヅラはシリコンの土台がボロボロになっており、年期が入っている。
飛行機が出発する前になんとか携帯カメラで撮影できないかと、数度試みたものの、音が鳴って気付かれてはまずいと思い、結局、断念せざるを得なかった。
飛行機が離陸準備に入り、客室乗務員が席上の棚の扉を次々と閉めている。そして、紳士の頭上の棚を閉めに来た乗務員が見たものは...
私はその乗務員をこっそり観察していたが、どうやら彼女も紳士の後頭部の秘密に気付いてしまったらしい。見てはいけないものを見てしまったという驚きと気まずさが混じった様な表情を浮かべつつ、彼女はその場を去って行った。
1時間半のフライト中、すぐ前の座席に在る紳士の不自然な後頭部の姿にこみ上げてくる笑いを堪え続けねばならなかった。これが長時間フライトの国際線でなくて、本当によかった。

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